忍者ブログ

[PR]

2024年05月19日
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

城崎さま

2010年03月22日
何とリンク記念に頂いてしまいました!石田に懐いてる黒崎…ラブ…vvv
--------------------
スイートポテトの作り方




「石田ぁ、これでなんか作って」
 そう言って、黒崎がサツマイモを持ち込んできた。
 ドアを開けた瞬間に大量のサツマイモの入った袋を突きつけられて、僕は一瞬面食らう。
 遊子ちゃんと夏梨ちゃんが学校の芋掘り遠足で掘って来たのだそうだ。
「大学芋、スイートポテト、サツマイモのパイ、リンゴとの甘煮。すぐできるのはそれくらいだけど…」
 なんか、お菓子ばっかりだな。だけど、芋粥っていうのも何だし。
 後は何ができるかな、とぼんやり考えていると、黒崎は楽しそうに言った。
「スイートポテト」
「じゃぁ、バターと牛乳と卵と砂糖と生クリームも持ってこい」
「分った!」
 サツマイモを玄関先に置いて、黒崎は飛び出そうとする。
 ちょっと待て黒崎。
 呼び止めると、不思議そうに黒崎は振り返った。
「反復してみろ」
「え?卵だろ、砂糖とバター?」
「それから?」
「えーっと」
 トリ頭じゃあるまいし、3歩もいかないうちに忘れるな、ばか。
「ちょっと待て、僕も行く」
 しようがないので、上着をつかむと、僕も黒崎と一緒にスーパーに向かった。

 

 そして、買い物から帰って小一時間。
 サツマイモを茹でて、裏ごしして味付けして、皮につめて焼いて。
 もうすぐスイートポテトが出来上がる。
 オーブンに入れて部屋のほうを見ると、黒崎が腹這いに寝転がって、何かを読んでいた。
「何読んでるんだい、黒崎?」
 ひょいと覗き込もうとすると、黒崎は慌てて読んでいた本、いや、雑誌を閉じた。
 そんなに慌てる必要もないと思うけど。
「べっ、別に見てただけだよっ」
 黒崎が背中に放ったのは、この間、バイトで使ったアイドル雑誌だった。写真に載っていたセーター
を編んだのだ。参考のために、と渡された雑誌だったけれど、結局、返さずにもらってしまった。
「こんなのがここにあるなんて変だったからなっ」
 偉そうに言うな、偉そうに。
 君はこの雑誌がバイトで使ったものだって知ってるはずだろう。別に僕の趣味で買ってきたわけでも
置いてある訳でもない。だいたい、これは、捨てるつもりで玄関脇に置いてあったはずだぞ
 って、おい、黒崎。そうだ、それは、玄関に置いてあったものだ。
「黒崎、人の家のものを勝手に取り出したりするな」
「だってやることねぇんだもん」
「だったら帰れ」
「お前、それ、冷たい」
 どこがだ。
「勝手に家に押し掛けてきて、何か作れだの、腹が減っただの、まだかだの、迷惑以外の何者でもない
と思わないか」
「だってよぉ」
 眉間にしわを寄せて下唇を少し突き出して。
 いつもしかめっ面をしているくせに、その実、君が表情豊かなのだと知ったのは、ごく最近。一見、
不機嫌そうに見える眉根とか、ガンつけてると言われるらしい、怖いとしか思えないたれ気味の目だと
か、それは君の顔のデフォルトだけれど、よく見れば本当にくるくると表情が変わる。それが面白いだ
なんて言ったら、黒崎は怒るかも知れないな。
「お前の作るもん、うめぇし…おっ、できたのか!」
 目がきらりと光る。黒崎は、チーンと鳴ったオーブンの音に気付いたらしい。
「手、洗ってくるぜ」
 こういうときだけ目敏いというか、耳敏いというか、鼻が利くというか。動きがとても素早い。
 まるで犬みたいだね、君は。
 追い出してやろうと思ったのに、黒崎は、いそいそと立ち上がると、手を洗いに行ってしまった。
 
 勝手知ったる、というのはこういうことを言うのだろうか。
 何だって僕は、黒崎が僕の部屋にいることを許してしまっているんだろう。
「石田ーっ、皿とフォーク出てないよなー」
 黒崎…
 君は洗面所に行ったのではなかったのか。台所で何をしてる。
 軽く脱力したが、こうなってはもう、何を言っても無駄なのは既に学習済みだ。僕は黒崎のやりたい
ようにやらせてやることにした。
 黒崎は、皿とフォークを並べると、いそいそとオーブンを覗き込んだ。
「もう開けていいか?」
「いいけど、熱くなってるから、気を付けろ」
「おうよっ」
 オーブンの蓋を開けると、香ばしい香りがただよってくる。
 鍋つかみを取ると、黒崎はスイートポテトを天板ごと取り出した。
「これ、どこ置きゃいい?」
「ガス台のところでいいよ」
「ん」
 天板の上には、金色に輝くスイートポテト。我ながら上手にできたと思う。黒崎は、部屋のほうへ飛
んで行くと、皿を持って来て、スイートポテトを一つずつ、皿の上に乗せた。
 僕は、黒崎が楽しそうにスイートポテトを用意している間、お茶を煎れてやることにした。
「食おうぜ、石田!」
 フォークを持ってスタンバイしてる姿は、どこぞの幼稚園児かと思う。
 でも、まぁ、作った物を美味しく食べてくれるというのは、作り手にとって嬉しいものであることは
事実だ。
「いただきますっ!」
 大口を開けて頬ばるな。行儀が悪い。
 だけれど、黒崎はいつも、眉間のしわがどこへ行ってしまうのだろうと心配するほどに幸せそうな表
情で僕の作ったものを食べるから、つい注意しそびれてしまう。
 僕が三口食べる間に、黒崎は自分のを平らげてしまった。
「なぁ、もう一個、食っていい?」
「ダメ」
「なんでだよ。ケチ」
「遊子ちゃんと夏梨ちゃんとおじさんのぶん。持って帰って上げるんだろ」
「親父にはいいよ。俺が食う」
「ダメだったら」
「いいってば」
「ダメ。おじさんに持って帰らないなら、黒崎、もう二度と、君には何も作らないぞ」
「ちぇっ」
 ふてくされたように頬をふくらます。黒崎、君は一体、いくつなんだ。
「ほら」
 僕はしようがなしに、自分の皿を黒崎の方へ滑らせた。
「食べかけでよかったら、やるよ」
「やりぃっ」
 まだ半分以上残ってたそれを、黒崎は二口で平らげた。
「うめぇっ」
 食べかけなのに…
 あきれるほど幸せそうに、黒崎はスイートポテトを口にする。
 まぁ、美味しいなら、それでいいか。
 
 結局、黒崎が帰ったのは、夕方かなり遅くなってからだった。お茶をした後、僕が片付けをしている
うちに、ごろごろしながらさっきの雑誌を見ていた黒崎が眠ってしまったのだ。
 疲れてるのかな。
 寝顔を覗き込むと、時々まぶたがぴくりと動く。眉根を寄せたまま寝てるのが面白い。指でつついた
が起きなかったので、放っておいたら、夕方まで目覚めなかった。
「黒崎、そろそろ帰らないと」
 軽く揺すると、黒崎は眠そうに目をこすりながら起き上がった。
「んん…」
「なんだってそんなに眠そうなんだ?」
 大きなのび。
「なんか、気持ちいいんだよな、ここにいると…」
 黒崎。僕の部屋は昼寝部屋じゃない。
 よっぽど言ってやろうかと思ったが、黒崎が素直に謝ったので、言わないでやることにした。
「わりいな、石田」
 そう言って立ち上がった黒崎に、僕は、スイートポテトの入ったタッパーを手渡した。
「はい。これ、皆さんに」
「お、サンキュ」
 素直に言われると気味が悪い。
 が、素直に帰ってくれるなら、言うこともない。何かを言って引き止めるのもばからしい。
「またな」
「もう来なくていい」
「うっせーよ。石田。またな、っつったら、またなんだよ」
 そう言って黒崎は帰っていった。
 黒崎の背中を少しだけ見送り、鍵を閉めて部屋の中に戻る。
 黒崎にかけてやっていた毛布をたたもうと持ち上げると、黒崎が読んでいた雑誌が毛布の下から出て
来た。
 黒崎は一体何を読んでいたのだろう。
 ふと思いついて雑誌を拾い上げる。
 広げっぱなしで、その上で寝てしまっていたのか、黒崎が読んでいたページには開き癖がついていて
、僕は簡単にそのページを見つけることができた。
『時には手作りで彼とティタイム』
 そんなふうなタイトルのページには、特集のアイドルが女の子の部屋でもてなされている写真が載っ
ている。
 可愛らしいティポットとティセット。ちっちゃなアップルパイ。ご丁寧に作り方まで詳しく書いてあ
る。
 黒崎は、何で、こんなページを見てたんだ?
 もしかして、アップルパイが食べたかったのか?
 あまりに不似合いで、僕は思わず笑い出しそうになる。
 小麦粉はある。バターは今日買ってきたのが(買ったのは黒崎だが)残っている。紅玉もそろそろ出
始めてると思うから、今度、作ってやるか。
 その時の黒崎の顔を想像したら、おかしくてしようがない。
 もう来なくていい、と言ったくせに、僕は、次に黒崎が来る時のことを考えていた。




KS*TIME/城崎さま
--------------------
■相互リンク記念に頂いてしまいました…アワアワ;いいのかな;超かわゆいイチウリありがとうございます~!
■城崎さんのサイトにこのお話の続きがあります。ぜ・ひ・に!
Comment
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Trackback
トラックバックURL: