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2024年05月19日
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恋の処方箋

2010年02月25日
頂き物・藤崎葵様(クロアズ)


 
恋の処方箋
 
 
 クロトには、ここ数日ずっと気になってることがあった。それは自分に直接関係することじゃない。否、関係したいのは山々だが…そう出来ないと言うのは、己の今ひとつ素直になれないあまのじゃくな性格の所為。だからきっと、周囲の誰にも気付かれていないと思う。
 けれど、今夜は少しだけ素直になって、気になることを訊いてみよう。
「ねぇ、シャニ…」
「ん~…?」
 それは、就寝前の僅かな空き時間。
 久しぶりに揃う筈の、3人一緒の寝室(と言うか、データ採取の為の実験室)で、自分の枕を寝心地の良いよう整えてたシャニの肩越しに、クロトは声を掛けてみた。それに眠そうな視線で返す相手は、ひどく眠たそうだ。
「なぁに、クロト?おれ、もー眠いんだけど…」
 更に、こんな風に言う声は不機嫌極まりない。けどこんな所で躓いては、百年経っても質問に答えて貰えないだろう。普段なら、「機嫌損ねるとコイツうぜぇから」と言ってストップを掛けるオルガが未だ来てないのを良いことに、クロトは我を通した。
「す、直ぐ終わるから、ちょっとくらい付き合えってば。――あのさ。シャニって、三日前の夜……おっさんの所に呼び出されてたじゃん?」
 それは間違いない。何しろ彼は、クロトと話している前で直接“おっさん”ことムルタ・アズラエル(…クロト、オルガ、シャニの観察者として最近特に口うるさく指示してくる、妙に気障ったらしくて丁寧な物言いをするわりに非常に、子供っぽい感じのする男)から呼び出されたのだ。しかも、そろそろ就寝しようとしていた時間帯に。
 いくら “仲間意識”なんてモノが希薄なクロトでも、個人的な“呼び出し”なんて物を間近で見ると流石に気になった(まぁ、彼には他に気を揉む理由もあったし)。
 だが、そこで素直に「何でシャニだけ呼び出すの?」とは聞けなかったクロトは、やっぱり素直じゃない。それでも気を揉んで、明け方までシャニの帰りを窺ってたのだが…結局、彼が自室へ帰ることはなかった。そこで疑問が残る。
 二人して一晩中何してたの――ッ!?…というヤツだ。
 どう考えても“仲良く一晩お話ししてましたv”なんて答えは返ってきそうにない。否、そう言われてもクロトは信じないだろう。大体、アズラエルに長話ができてもシャニが付き合える筈がない。きっと途中で飽きて眠ってしまうだろう。それ以前に、二人がそこまで仲が良いという話は聞いたことがない。だったら――???
 ソレを一度気にし始めてしまったら、もう止まらなかった。元々、気に掛かることがあれば脇目もふらず集中して突き詰める所があるクロトは、まるで難関なゲームに挑むように頭を抱え…ある疑念を抱いたのだ。
 ひょっとして――アズラエルとシャニはデキてる???
 そんな馬鹿な!と思ったけれど、一度考えたらもう何も手に着かず、ここ数日はMS操縦訓練やその他の基礎技術講義に、まったく身の入らない状態が続いていた。
 普段は自分より不真面目なシャニにすらバカにされ、“視察”と銘打ってここ数日毎日顔を合わせているアズラエルからは呆れた様な溜息を吐かれたり…と散々だ。ここらでいい加減、ケリを付けたいと思うのは当然だろう。
「――なぁ…あの日、結局帰らなかったみたいだけど…何してたわけ?」
 だが、口にしてしまってから、クロトはちょっぴり後悔する。
「…んなこと、気にしてたの?おれは、その日だけじゃなくて…一昨日も昨日も、あいつに呼び出されたんだけど~…」
「え…ッ!!」
 コレはハッキリ言って衝撃だった。と言う事は、二人はここ数日間ずっと一緒の夜を過ごしてたコトになる。コレはもう、黙ってなんかいられない。
 だってだって、クロトは――!!
「シャニ、もしかしておっさんと――」
 切羽詰まって、ついでに距離を詰めて迫ってくるクロトを…“あ~うざぁい”とか、そんな風に思ったのかも知れない。シャニは一つ、“はぁ~”とやる気のない溜息を吐くと呆れた様にハッキリ言った。
「――そんなにスキなの?あいつのことぉ…」
「え…――ええっ!?」
 何でいきなりそうなるんだろう!?と、核心を突かれたクロトはパニックに陥ってしまった。
「な、何でそう言う話になるワケ!?ボクはそんなコト、ひとっ言も――っ!!」
「言ってなくても分かるってば…。もーバレバレ。クロトってば、隠すの下手すぎぃ」
 この恋心はずっと秘めていたつもりだったのに、知られていたなんて大ショックだ。しかも、この、無神経なシャニに…ッ!
 ――悪かったね!どうせボクはあの人が好きだよ!!
 そう叫びそうになる。本気の本気の大マジで、クロトはアズラエルが好きだった。ついでに言ってしまえば“初恋”だ。好きになった切欠なんて、もう覚えてないけれど。でも、気が付いたら凄く好きになってたコトに気付いて自分でもびっくりした。何しろ、3人の中で一番最初に彼の悪口を言ったのが自分だったからだ。
 “取り澄ました顔しちゃってさ、偉そうに。嫌味ったらしいったらないよねっ”そう吐き捨てたのは、確か彼から“キミたちの換えならいくらでもあるんですよ”と言われた時だった。
 投薬の影響かそれとも生来の性格か…ムラッ気が多く訓練をサボりがちだったクロトとシャニに、それまでは滅多に近くに寄って来なかったアズラエルが忠告したのだ。勿論、当時は反抗期真っ盛りなクロト(今も違うとは言い難い)が、それに素直に従うことはなかったけれど、少なくとも“見返してやる”という気持ちは働いた。
 目標はアズラエルに“やはりキミが居てくれないと…”てな台詞をしみじみ言わせる事だ!と心に決めたクロトは、その日を夢見ながら心躍らせ訓練に励んだ。で、その時強く思ってしまったのがいけないのか、それ以前の問題なのか――いつの間にか、彼に恋してる自分に気が付いた。
 けれどそれまでの経過を考えると、とても「好きです。ボクと付き合ってください」なんて言えない。それに、アズラエルはクロトより…少なくとも年齢は上だ。果たして彼が“年下”の、しかも“男”と付き合ってくれるものだろうか?そんなコトを悶々と考える日が続き――結果“自分が大人になるまで(せめてアズラエルの身長を追い越すまで)この恋は隠し通す”そう決めたのだ。
 けれどシャニは気付いていた。おバカな彼に知られてたなんて…ひょっとしたらアズラエルにも気付かれてるかも知れない。こんな事ならもっと沢山イジワルをして、絶対考えられないようにしておけば良かった。だってクロトの身長は、未だアズラエルのそれに遠く及ばない。それなり以上に“恋愛”と言うモノに憧れてるクロトとしては、自分が両腕にすっぽりと彼を包み込めるようになったところで、格好良くコクハクしようと思ってたのに…っ。
「あんなに、コトある毎につっかかってさぁ…意識してないって言うほーがフシゼンだよ~」
「――ッ何時も何時も、ベタベタくっ付いてるシャニ達に言われたくないよ!!」
 悔しいやら腹が立つやらで、内心「何時もいちゃつけて良いな~」と思ってる事も忘れて強く反発してしまう。が、シャニはそんなコトに頓着しない。
「おれとオルガは、隠す気なんて無いからいーの。…けど多分…てか、アズラエルってなにも気付いてないと思うから、何か手ぇ考えた方が良いんじゃない?」
「え…気付いてない?」
 シャニですら気付いたのに、ひょっとしてアズラエルってば鈍いっ?そう考えると、何だかとても彼のことが可愛く思えて…クロトの頬を緩ませた。
 しかし、それを冷たい視線で見送ったシャニが一言。
「あのさ、クロトがどう思ってるかとか知んないけど…もし、アイツの恋人になりた~いとか思ってんなら――せめて、“おっさん”扱いは止めた方がいーよ?なんか、恋愛から遙かに遠ざかってる気がするしぃ」
「え?良いんだよ、別に。ボクは…せめて、オルガとシャニくらいになるまでは言う気も無いし、気付かせる気もないんだから」
 普段の二人を見ていれば、そのくらいの役割分担は分かる。体格で劣るシャニを緩く抱き締めたオルガが楽しそうに会話を交わす。そんな姿を目で追いながら、自分に重ねてみたりもした。今は到底叶いそうにない“夢”だ。
「おれとオルガ……あぁ、身長~?――伸びなかったらどーすんの?」
「うっさいなぁ!!バカシャニッ!」
「バカはぁ、クロトの方ぉ。そんなのちっとも当てになんないしー、要するに逃げてるだけじゃん」
「な、なんだって――ッ!?」
 クロトは怒って…だが続ける言葉に詰まる。それは、シャニが正しかったからだ。
 今、確かにクロトは逃げている。勝負を賭けることに。アズラエルにちゃんと“好き”言って答えて貰える自信がないから…。
「あのさー。今はセンソーなんかしてるワケだし、おれ達もどーなるか分かんないでしょ。好きならさっさとくっ付いちゃえば?こんな時だし、アイツだって押せば何とかなるかも…だよぉ」
「で…でも――」
 シャニの台詞に流されそうになったクロトは、そこで不意に気が付いた。今夜の自分は、こんな事を言われたくてシャニに呼び掛けたんじゃなかったのだ。
「シャニはどうなんだよ!?ここんとこ、ずっと一緒に…よ、夜を過ごしてたんだろッ!」
「あーあれぇ。ま、一緒に寝てたケドね…」
「何ぃッ!?」
 コレに、クロトは大仰な声を上げて答えた。そりゃ大仰にもなるだろう。此処最近彼を悩ませていた“疑惑”が見事的中してしまったのだ。まさかホントにそーだったなんて!!!…と、声を大にして叫びたいくらいだ。
(おっさんて、シャニのこと好きだったのっ!?しかも――ヤる方!?)
 これは…少なくとも男性相手に相当失礼な感想だが、「うざぁ」と言って到底ヤる方にはなり得ないシャニを前にクロトは本気で思い悩む。アズラエルが“どーしてもヤらせろっ”と言えば、それは応じなければいけないのだろうか!?クロトとしては、自分が“ヤる気”満々なのに…っ!
「あのさ~クロト。何となく分かるけど…どーゆー想像してんのさ。もぉサイテ~」
 ふと気が付くと、シャニが女子高生のような口調で冷たい視線を向けてきた。
「え~…だってぇ~」
 まぁ、そこで応じるクロトも同じようなもんだが、此方の事態はかなり切迫してる。
 だが其処へ来て、シャニが思わぬ事を口にした。
「言っとくけど、おれとあいつはぁ…フツーに“眠ってた”だけだってば。おれが訓練サボりがちなの知ってるでしょ?で、アイツが言うの。オルガの所為でしょう――って」
「え…えぇ…っと?」
 状況を把握できてないクロトに、シャニは面倒臭そうに吐息を吐くと説明を続ける。
「だからね、クロトが言ったみたく…いっつもくっ付いてて、ついでに結構あっちの方も宜しくヤってたわけ。んで、ちょっと怠いかな~と思ったら訓練サボってたんだよ、おれ。そしたら、あいつが怒って「僕が監視して上げましょうね」とかヒマなこと言い出したの」
 ホントうざぁ…と、本気で鬱陶しそうに視線を流すシャニの機嫌はあまり良くない。確かに彼は、ここ数日真面目に訓練に顔を出してたが、その背景にそんなコトがあったのかとクロトは感心してしまった。否、アズラエルに惚れ直してしまったと言っても良いだろう。
「じゃ、本気で何もなかったんだ…」
「なに嬉しそーな顔してんの。クロトの立場が悪いってのは変わってないよぉ。それに――したい方のクセにドーテーってのもどーかと思うけど?」
 だが突然の指摘に、本気でナニが縮み上がりそうになってしまうじゃないか。
「シャ、シャニぃ…ッ!?」
 何でそれを!!と思わず、勢いのまま叫びそうになる。まぁ叫ばなくても分かり切ってるのか、「苦労するよねぇ、アズラエルも…」と彼にしては珍しく、他人事に気遣ってるようだ。
 …そりゃ、自慢じゃないがクロトに経験はない。聞きかじり程度の知識と…まぁ、アズラエルを好きになってからはソノ手の知識も必要だと思い、ちょっと検索したりもした。だがシャニの言い方は、バカにしてるったらありゃしない。
「……だったら、シャニがなんとかしてくれんのかよぉ」
 思わず恨みがましそうに言ってみれば。
「なーんで、おれが。あのねー、おれはドーテー喰いのシュミなんて無いのっ」
 と言うからには、オルガはそうではなかったのだろう。…羨ましい。
 何だか情け無いような妬ましいような…そんな気分になって、シャニがさり気なく言った“男のプライドを擽る言葉”にも反論できないでいた。
「あ――けど、アズラエルなら喰ってくれるんじゃない?」
 しかし、そんなコトを指摘されてクロトに勢いが戻る。
 ――思えば、この時のクロトは悶々とした気持ちを抱え、正常な判断能力を失っていたし…シャニは、眠さのあまりブチ切れてたのだが。
「ほらぁ…何だかんだ言っても、おれ達に構ってるトコみると年下がきらいなワケじゃなさそーだし」
「えっ!?そ、そっかなっ?」
 無茶苦茶なシャニなんかの言葉に、一筋の光明を見てしまったクロトはさぁ大変だ。
「そーだよ。きっとー…年下ぶって「ヤり方わかんない~」とか言って泣きつけば、手取り足取り腰取りで、懇切てーねーに教えてくれるんじゃなぁい?…うん、間違いないよ」
「え…ッ、そ、そんな…――」
 あのアズラエルが、「しょうがない子ですねぇ…」と呆れた返事をしながらも、クロトの為に“あーんなコト”や“こーんなコト”をイチから順番に教えてくれるなんて…っ!もちろん彼だから、“半端”とか“挫折”の文字はないだろう。おそらく、自分の気が済むまでクロトに様々なレクチャーをしてくれるに決まってる。それも当然、“実戦付き”!
「ほっホントに、そんなコトが可能だと思うッ!? シャニ…ッ!」
「うん。賭けてもいーよぉ。だから、心おきなくどーんと押し倒して目的を達成させちゃいなってば」
「ええッ!?そんなぁ!…いきなりしたら、いくらおっさんだって駄目出しするんじゃ…」
「なに言ってんの!クロトの方は、もう限界なんでしょ?俺のこと疑うくらいなんだからさ。――いい加減、さっさとヤるコトやって落ち着いてよねっ」
「――おぉ~い。お前ら…なんて話してんだよ」
 その時、二人の会話に割り込んできたのは、3人組の最後の一人…オルガだった。
「オルガっ」
 それを認識しして呼び掛けた瞬間だけ、シャニの声が僅かに弾む。
「ああ、シャニ。おっさんが呼んでたぜ」
 入室したオルガは、ものの序でのように伝言を告げる。なかなかこの就寝部屋へ来ないと思ったら、どうやらアズラエルに捕まっていたらしい。用事を言いつけるなら自分にしてくれたらいいのに…こんな時にも自分は間が悪い、クロトはそう思った。
「え~?今日もなのぉ~?…いい加減、マジうざぁ」
 だが心底嫌そうな顔をしたシャニは、オルガの言葉に不満を露わにする。クロトは自分が御指名されたなら、喜んでフラフラと飛んでいきそうなのに…。
「――何だよ?シャニ」
「……クロトは、自分が呼ばれたら嬉しいかもしんないけど…おれは、ちょーうざいのっ」
 ホントにもうサイアク~とふくれっ面をするシャニの頭に、訳知り顔のオルガが軽く手を置く。そのままポンポンと撫でる手はクロトよりも大きくて…「ボクだって、もう少し成長したら、あんな風にアズラエルをあやしたいッ」なんて妄想が脳裏を過ぎる。
 だがそんな妄想を突き破るような勢いで、シャニが吐き捨てた。
「も~っ!あいつんトコ行くんなら、クロトが行けば良いんだよ――…ッ!?」
 その瞬間、シャニは何かに気が付いたようだ。クロトにはソレが何だか分からなかったけれど、いち早く察知したオルガはシャニに視線を固定したまま肩を竦める。
「おい、シャニ。…そりゃ、洒落になんねーぞ」
「だってぇ、オルガ~…っ」
 二人の会話の意味は、やっぱりクロトに分からない。こんな時、通じ合ってるヤツらは良いよね!と愚痴の一つでも零せないのは、余裕のない証拠なのかもしれない。
 だがそんなクロトを余所に、シャニの視線は(眠さと不機嫌の為に)不審さを増し…オルガは諦めたように溜息を吐いた。
「え、何?なんだっての?」
 事態をまったく把握できず、二人を交互に見ながら疑問符を上げる。そんなクロトに、シャニは一言…彼にしては実に画期的な提案を打ち出した。
「あのさぁ、クロト。どーせなら今晩、あいつに――」



 そんな訳で十数分後。3人は…というか、3人プラス(哀れムリに付き合わされる形となった)1人は、こんな状態にあった。
 こんな、とは…バスローブ姿のアズラエルをベッドに押し倒し、ソレを3人して見下ろしているという恰好だ。ついでに言うと、オルガの分担はアズラエルの身動き奪うことで、シャニは大胆にもその上に跨り、クロトは…と言うと、ベッドの隅で半ば茫然とその光景を眺めていた。
 ――つい五分ほど前、揃ってアズラエルの部屋に押し掛けた3人は、その姿を見て「僕が呼んだのはシャニだけの筈ですが?」と少し驚いた顔をした部屋主を襲撃し、瞬く間にこの状況を作り上げたのだ。因みに此処で主導権を握っていたのは、部屋主のアズラエルでもなく、彼に恋したクロトでもなく、3人の纏め役であるオルガでもなく――眠さと不機嫌でブチ切れていたシャニである。
「ちょ…ちょっと、何してるんですか!シャニっ!!――要求を言いなさいっ」
 流石に状況に切羽詰まった声を上げるアズラエルは、身の危険というモノを感じているらしい。だが、抗議と共に身を捩った瞬間、バスローブの胸元がはだけてクロトの鼓動を跳ね上げさせた。
 更にその肌の上をシャニの指がひと撫でし、アズラエルが肩を竦めるのを見るに至っては…あまりにも倒錯的で妖しげな雰囲気に凍り付いてしまう。…が、シャニはそんなコトに構わず、アズラエルの言葉通り“要求”を突き付けた。
「ねーねー。あんた前に…「お馬鹿なキミらで分からないことがあったら何でも僕に訊きなさい」って言ったことあったよねぇ?」
 それは――確かにあったことだ。
 あれは未だ…クロト達が預けられてた施設から、書類上アズラエルに引き取られる形となって間もない頃の話。生意気盛りの3人を牽制したつもりなのか、彼はそんなことを口にして、自分が随分と“物知り”で“大人”であるように振る舞ったのだ。
 まぁ実際、彼がそれなりに物知りであるのは本当だったので、当時は「ヤなおっさん!」程度の認識だっが…今考えれば随分と可愛らしい思い出である。
 そんなシャニの言葉に、アズラエルは一瞬肩の力を抜くと安心したような顔をした。どうやら相手の要求が“命”ではないことを知ってホッとしたのだろう。その表情には、うっすらと余裕さえ出てくる。
「ああ…確かに言いましたっけ。何です?3人揃って僕に何か質問でも?」
 それにしたってこんなやり方は感心しませんがねぇ…とブツブツ文句を言いながら、満更でも無さそうだ。自分が“物事を教える”という優位な立場になるのを、アズラエルが嫌がる筈もない。
「人に物を尋ねる時は、もっと違った態度とか手順があると思うんですが…まぁ、キミ達に言っても仕方ないですね。その教育は、また今度と言う事にしましょう。取り敢えず、教えると言ったのは僕ですし。――で?今は何が知りたいのかな?」
 ところがこの…一見高飛車に聞こえて実は子供のように自分の優位を誇示する言葉に、シャニはニッコリ~と笑うと外見上だけは機嫌良く言う。
「ん~ん。おれとオルガは知ってるからいーの。問題はぁ、クロト」
「は?クロトだけ…ですか?一体、何――…ッ!?」
 不意に、先刻は指先で触れた肌をシャニがぺろりと舐め上げた。
「こら!シャニッ。悪ふざけもいい加減になさい…って!何してんだっこのガキ…ッ!!」
 遂に本性が出たのか、本格的にバスローブを脱がせようとするシャニを罵るアズラエルはひどく子供っぽい。というか、本気で焦っているようだ。
 そんな時、しつこく抵抗するアズラエルの両手を、バスローブの止め紐で固定することに成功したオルガが声を掛けてきた。
「おいおい、おっさん。どんな時でも“大人の余裕”を忘れちゃ駄目だぜ?…けど、シャニ。お前は其処までだ。――おい、クロト」
 そうして、当初の目的を忘れてアズラエルを追い詰めるコトに意欲を示してたシャニが「えぇ~っ」と不満そうに声を上げるのを制すと、その体を抱き上げながらクロトを呼ぶ。
「あとはコイツから…“セックスの仕方”ってのを、ちゃーんと教えて貰え。俺等は邪魔しねーから」
 衝撃の言葉に、流石のアズラエルも身の危険を本気で察知した。
「はぁっ!?オイこらっ!お前、何言って…ッ!――いい加減にしないかっ!」
「往生際悪いぜ、アズラエル理事。ヤリ方知らねーって年じゃねーだろ。言ったことには責任取れよな。――大人なんだろ」
「う…っ」
 傾城に分析すれば理不尽なのだが、オルガの妙にツボを突いた物言いに詰まったアズラエルだ。この辺りは“リーダー”たる所以なのか、実に纏めが上手い。
「男の子は最初が肝心って言うからな。任せたぜ、おっさん。――クロト。しっかり勉強させて貰えよ。実技で」
 そう言い残したオルガは、まだ不満そうなシャニを肩に担いで部屋を出て行ってしまった。
 後に残されたアズラエルとクロトは…と言うと。
「クロト、この紐を解いてくれません?」
 ニッコリと…だが内心は冷や汗を滝のようにかきながら、愛想良く要求するアズラエルの言葉にクロトはちょっと考える。彼のこんな笑顔は滅多に見られないし、歓迎すべき物だ。けれど、もしこの紐を解いて彼が自由になったら――?
(この部屋、ソッコーで追い出されそーだよねぇ…)
 そのくらいの思考能力は、クロトにも残されていた。それに、その見解は間違っていない。大体、アズラエルに“両腕を拘束され固定されてる”というハンデさえなければ、クロトを部屋から引きずり出すくらい簡単なのだ。そのくらい、自分達の間には体格差という忌むべきモノがある訳で…。
「お、教えてくれたら…解いてやっても良いよ」
「は?キミ、自分が何言ってるのかわかってます?」
 結構強情なクロトに、平静を装って空惚けた物言いをしてみるアズラエルだが、当然通用する筈もない。クロトはもう、心に決めてしまったのだ。
「分かってるよ、自分の言ってることくらい。えっと、おっさん…じゃなくって、アズラエル…さん。ボク、あなたのコトがずっと好きだったの。最初は、あなたとしたい」
「は…ぁ??」
 突然すぎるコクハクにアズラエルの頭は真っ白で、だから近付いてくるクロトの顔を避けることすら思いつかなかった。
 そうしてクロトは、呆けたように薄く開けられたままの唇に、触れるだけのキスをする。何だかそれだけで今日は充分…と一瞬だけ思ったが、そうする為に手を置いたのがアズラエルのはだけた胸だっ為に収まりがつかなくなってしまった。
 此処でクロトは思い出す。立場は逆だが、同じように男性と恋愛(?)しているシャニからのアドバイスを。
 『年下ぶって「ヤり方わかんない~」とか言って泣きつけば、手取り足取り腰取りで、懇切てーねーに教えてくれるんじゃなぁい?』
 確か彼は、そう言った筈だ。
 よし、とクロトは此処で精一杯“年下ぶって”ついでにかなりしおらしく言った。
「…ね、教えて?ボク…その、分かんないから」
 勿論、アズラエルに馬乗りになった状態での言葉なので、彼の“分からない”が“ヤる方”であるコトは間違いない。そうなると、もちろん“ヤられる”のはアズラエルで…。
(僕が“される”方なんですかぁっ!?それも、教えろって…!教えるぅ――!!?)
 だが目の前には、瞳をうるうるとさせた迷える子羊(笑)が不安そうに自分を見つめている。
 否、実際は…仲間と組んで犯行に及んだ“タダのクソガキ”に過ぎないのだが、どうもクロトの行動はアズラエルのツボに入ったらしい。
「ね…“駄目”って言う?…ボクのこと、嫌い?」
「――ッ!!!!」 
 この計画犯!!と、アズラエルが後に目の前のクソガキを罵ったかは不明だが、彼の“指導は完璧♪”で“とっても分かり易くて、すっごく良かった♪”と、後にクロトが仲間内に自慢したとかしなかったとか…(笑)

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かすみ工房/藤崎葵さま
■く、く、クロアズ~~~!!!やはり私はかなりやかましくクロアズ万歳してたみたいデス…さいとうに続き藤崎さんまでクロアズ書いて下さいましたヨ~★ヒャッホウ★ありがとうございます~!大好き!
■てゆーか藤崎さんよゥ、肝心の部分が書いてないヨ…?指導してるところが見たかったのに~!(笑)←「アズラエルを喘がせるのは私には無理」と言われてしまいました…。ちぇーっ。
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