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2024年05月19日
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頂き物:藤崎葵様(そのに)

2010年02月26日
かすみ工房/藤崎葵様からの頂き物、第2弾ですっ
前回の続編ですよ。
「仕切直しだっ」
 そう言ったのは礼央で…疑問に思いながらその条件を了承させられた閃は、現在彼女に付き合って電車に乗っている最中だった。
 しかし、こうなった原因はかなりの比率で閃にある。
 ――というのも、先日二人が試合をした時に起きたハプニングの一件で「責任をとる」と言った閃に対して礼央が出した条件…“男の体のつくりをじっくり知りたい”というものが、今ひとつキチンと実現できなかったからだ。
 イヤ、勿論閃だって“世界最強に成りたいが為、男として試合に紛れ込んだ”という彼女をとても気に入っていたし、その結果(知らないが故の過失部分と言い訳もできたが)少々無茶な条件を出されても呑むつもりだった。だから一度はそのつもりで家に連れ帰り、(少々期待外れな展開ではあったが)約束通り剥かれるに任せて礼央の好きに「身体の造りでも筋肉の付き方でも勝手に見ろ」と言ってやったところ…気が付けば彼女の姿は無く、別れの挨拶さえ告げずに消えてしまっていのだ。
 まぁコレには「勝手に見ろ」と言いつつ寝入ってしまった閃が、試合の時以上に不埒な行為を無意識に仕掛けてしまったという原因があるのだが、取り敢えずその事について礼央が口を開くことはなかった。ただ翌日に会った学校で、妙に怒ってる礼央から「昨日の約束はちゃんと果たされなかったから、仕切直しだっ」と言われ…何故か違う条件を突き付けられたのだ。
 その条件とは「放課後、ちょっと付き合えよなっ」と言うモノで――つまり、閃に対して(試合以降、昨日の件も含め)何らかの感情が芽生えつつある自覚のある礼央が、彼の時間を少しばかりいただいて己の心を推し量ろうという…実に年頃の(ニブイ)乙女らしい考えだったのだが…。
 そんな可愛い彼女の考えは、今ひとつ閃には通用してないらしい。まぁこれで「付き合ってくれ」の内容が手合わせとかなら、彼だって胴着姿の彼女を宥め賺して寝技に持ち込むことくらいはするのだろうが…こうして女子の制服姿の礼央を連れ立っても今ひとつ面白くないのだ。
 だからつい、こうして不満も露わな言葉が出てきてしまう。
「…責任だったら、こないだ取ったろ~?なぁんで、また付き合わなきゃならんかね」
「――うるさい。あんなのナシに決まってんだろーがっ。あんなのっ!」
 勿論、閃の複雑怪奇な心情などとても理解できない礼央は、こんな奴どうして気になるんだろうっ?と我ながら悔しく思って吐き捨てる。尤も、彼女が閃にそれなりの感情を持ったところで、その理由は実に明快だから今更悔しいと嘆いてもしかたない。“初めて自分を認めてくれた男”というのは、彼女にそれなり以上のインパクトを与えてたのだ。けれど、その結果“閃と過ごす時間を望んだのは自分”いう考えが、彼に対して強く出られない理由になっていた。
 だから「今日も修行しようと思ってたのになー」なんて呟く横顔を見ていると、ちょっとした罪悪感なんてモノも沸いてくる。こんな事なら出来心でつい「ちょっと付き合え」なんて言うんじゃなかったと思うし、長く居たいなら遠出するしかないと思って利用した電車の込み具合さえ、何だか自分の所為のような気がして…。
「嫌、なのかよ…っ」
 こうして自分に付き合うのが“時間の無駄”だと思うなら…それはそれで少しヘコむ事だけど、今からでも予定を変えて良い――そう思って咄嗟に口にした言葉だったが、閃は別にそんなつもりで言ったワケじゃなかったらしい。
「いや、そーゆーワケじゃないって。ただ――」
 そう言葉で軽く否定すると、何かを探るように礼央の顔を覗き込んでくる。だが、通学通勤で込み合った車内は互いを息が触れ合うほど近い位置に寄せさせて、礼央の心音を跳ね上げさせた。
(な…ッなんで動揺するワケ!?ちょっと…カオ見られただけじゃんかっ!!)
 普通、何の前触れもなく10センチも離れてない位置に異性のカオが現れて、ジ~ッと覗き込まれたら大抵の人間は動揺するだろう。けれど彼女はそんな事にすら気付かないほど動揺していた。
「…なぁ、山田。俺ャなんか悪いことしたかね?ど~も、おめーが怒ってるよーに見えるんだけどー…」
 更に――“何カ悪イコト”と訊いて、礼央は咄嗟に昨日の出来事を思い出してしまう。あの、試合の時のような他意のない触れ合いなんかより…明らかに意志を持った閃の手が……。
「ッ別に――怒ってなんかいないって!」
 思わず勢いのままに否定してそっぽを向いてしまった礼央だけど、その頬が熱くなっているのは自覚していた。
 ここで言ってしまうと、礼央は本当に怒っている訳じゃない。ただ、あの時のことを思い出すと少々恥ずかしいのだ。そりゃ、嫁入り前の花も恥じらう乙女(笑)が、ちょっとは意識してるオトコに胸やら彼処やら撫で回されたら少々反応がおかしくなってもしょうがない。
 しかし、そんな事情なんて全く関知しそうにない閃には説明なんてできないし…今更あんな事を蒸し返すのはもっと恥ずかしい。きっと無神経な彼にあれこれ突っ込まれ、困った状況になるのは目に見えてるじゃないか。
 斯くて礼央は自分の胸に全てをしまい込んだのだが、こうなってみると閃の無神経な所にちょっぴり腹が立つ。こんな事ならちゃんと言えば良かったと思わないでもないが…それよりも、此処まで着いて来たクセに何時までもウダウダ言ってるところに腹が立ってきた。
 気に食わないなら来なきゃ良いのに!などと誘った身でそう思うのは、礼央の気が短い証拠だろう。
「――だったら…」
「ただ!…あン時は、思ったような成果が上げられなかったんだよ――お前の所為でっ」
 …だからつい、まだ何か言おうとした閃の言葉を遮ってしまった。すると、思った通り“納得できな~い”と言った感じのカオの閃が溜息を吐くようにこう言うのだ。
「結局、俺が悪ぃんじゃね~か~…」
 そう、その通り。礼央にしてみればやっぱり原因は全て閃にある訳で…だからもう半ば自棄になったつもりで言い募る。どうせ迷惑だと思われたなら、迷惑序でに自分の気が済むまで付き合ってもらうという妙な開き直りまで生まれていた。
 だから勢い序での言葉の歯切れはイイ。
「…ッだから仕切直しだって言ってんだろっ。責任とるっつったのはそっちの方なんだから…面倒でも約束は守れ!」
「――いや、だからねぇ~。そりゃ良いんだよ、別に…。面倒なワケでもねーし」
「へ…」
 何だかポロリと零れた一言が凄い物のような気がして、礼央が反射的に俯いていた頭を上げる。すると、さっきよりも更に間近で自分を見つめる閃と視線が合って…礼央の動揺は一瞬にしてピークに達してしまった。
「俺が言いてーのは…な~に、そんな怒ってんのかなー?つーことで…」
 ――この時の閃は、多分礼央の様子を訝しんで…というか、それなりに気にしてくれていたからこんな言葉を掛けたのだろう。けれど礼央はそれどころじゃなくて、つい怒鳴り返してしまうのだ。
「~ッだから!怒ってないってば!!……ッ!?」
 ハッと気付いても時既に遅し。満員に近い電車の彼方此方から向けられる視線はイタイし、クスクス笑われて恥ずかしい。一体、自分達はどんな風に見られたというのだろう。
 だが閃は、そんな周囲の様子なんかどこ吹く風で…自分の気がかりになっている事だけを口に乗せる。
「……怒ってるでしょーが。ホントに、何かしたかねぇ?俺ャ…」
 トボける…というよりは、礼央の不機嫌の理由もこの事態にも本気で気付いてない閃に状況を説明するのはムリだろう。それに、反省する気はあるみたいなので一瞬浮かんだモンクも引っ込めた礼央は、ただ一言だけを洩らす。
「も…良いから、黙ってな…っ」
「………へーい」
 何かまだ言いたそうだったが、困ったような感じで黙れと言われてお喋りになれるほど閃は愚かではなかった。大体、此処でまたしつこく問いつめれば、今度はきっとグゥの音も出ないほど痛めつけられるに違いない。
 そんな訳で黙り込んだ閃だが…ふと、あることに気が付いた。
 今日は行き先も説明されないまま礼央に着いてきたので、どの駅で降りるのか訊いていなかったのだ。こんな風に人が込み合っている車内では、先に下車する駅を訊いておいた方がスムーズに降りられるだろう。
「おい、山…」
 そうして声を掛けようとした時――礼央の肩越しに不審な影を見付けてしまったのだ。
(お?ありゃぁ、ひょっとすると…)
 その影は、礼央とよく同程度の年齢と背格好をした女子の近くに居る男だった。しかし男は、その制服姿の女子に背後からペッタリと寄り添うという…実に奇妙な行動に出ていた。そうして、その男に背後から覆われるような感じになった子の顔色は、とても歓迎していると言うものではなくて…それに気付いた閃はピンときた。
(あんニャロー…チカンか?)
 導きだされる答えはそれしか無くて、勿論そんなものは許せんと考えた閃は止めさせる為の行動を起こそうとした――が、先を越されてしまう。
「…おい、テメェ――この、痴漢野郎…!」
 そうやって少し声のトーンを下げ男に近付いたのは礼央だった。どうやら彼女も、閃と同様に男の行動に気付いていたらしい。見れば女子に近付いてた男を排除して、その腕を容赦なく捻り上げている。
(う~む、やっぱこーゆー時の山田は早いのぉ~…)
 先を越された形になった閃は、こんな場所でも有効な礼央の素早い動きに暫し感心してしまう。制服姿に触手は動かないが、女の格好をしていても山田は山田なんだな~と、つくづく失礼なことを考える閃であった。
「次の駅で突き出してやるからな!覚悟しやがれっ」
 そんな閃を余所に、痴漢発見という恰好の八つ当たりの対象を見付けた礼央は、さっきまでの鬱憤を晴らそうと実に楽しそうに相手を追いつめていく。助けて貰った女子が横から礼を言ってるのだが、それすら気付かないほどだ。
 そんな彼女の好戦的な姿は、実に閃好みで――。
 ……サワサワ。
「ん?」
 不意に妙な気配に襲われた礼央は、痴漢の腕を捻り上げたままで己の身に起こっていることを注意深く考える。
 ……モソモソモソモソ。
(んっ!?――まさか…)
 まさか自分に対してこんな行為が行われると思ってなかった礼央は、これがそういうモノでないことを願った。というより、ちょっと考える気になれなかったのだ。こんな風に大の男を引っ掴まえた上、大声で痴漢呼ばわりするよな自分にそんな事が起きるとは…。
 ……ゴソゴソゴソゴソ。
(~~~ッ!)
 でも、どー考えても気の所為じゃ無さそうだ。この、尻の辺りから特に胸の辺りを故意に触ってる…なんてものじゃなく、しっかりと意志を持って揉み上げているこの手は――。
「――ッ!テメェも痴漢かぁっ!!!!」
 がばぁ…っ!と振り向きざまに、その不埒なことをしでかしたヤツの手を捻り上げた礼央だが…。
「いででで…っ」
「えっあ、すっ皇ぃ…っ!?」
 やっぱりというか、こんなことする度胸の持ち主はコイツくらいしかないだろうというか……当然のように其処に居た相手を確認して純粋に驚く。そんな礼央の顔を見ながら、コトがバレてしまった閃は…。
「てへ♪」
 …と一つ、苦笑いを浮かべる。だがそんな事で礼央の目が誤魔化せる筈もなく、当然の如くの怒りの鉄拳を食らうのであった。
「~~ッ!!――「てへ♪」じゃねぇーッ!!!!」
 そうして、テメェも一緒に突き出してやる~っ!!と礼央が騒いだのは言うまでもない…。

 勿論、次の駅で降りた礼央は…最初に掴まえた痴漢と、次に掴まえた痴漢も駅務室に突き出した。
 だが――。
「――こっちの男の事は判ったがねぇ。…こっちの子は、キミと同じ学校の子じゃないの?」
 駅務室の駅員にそう問われ、礼央はグッと言葉に詰まる。どうやら制服でそうだと分かってしまったらしいので、言い訳はきかないだろう。
「それで?彼はキミに着いてきたの?ストーカーとか?」
「えっいや、そんなんじゃ――」
 流石にストーカーと言う穏やかでない言葉に礼央は焦った。だがそんな彼女の横に並んだ閃は、罪の意識もないのか実にあっけらかんとした口調でサラリと言う。
「俺ゃ、こいつに「付き合え」って言われて付いてきたんだけど…」
「は?なんだい、そりゃ…。――じゃ、デートの最中だったってわけか?」
 すると閃の言葉をどう取ったのか、駅員が妙な誤解を始めるではないか。
「デ…デートっ!?」
「お?そういうもんなのか?――んーそー。デート、デート」
 瞬時に頬を赤くした礼央を余所に、ワケが分かってない閃はそうやって適当に言い逃れるが、そんな事を言われて黙ってられない。
「てめ…皇ぃっ!!」
 しかし、何てこと言いやがるんだ!と掴みかかる礼央の姿と、それでもヘラヘラと笑ってる閃を見た駅員は…。
「痴漢ごっこなんてしてるんじゃないよっ。――全く、最近の若い者はぁ…」
 と深い溜息を洩らして、即座に二人を駅務室から追い出したという。
 その後――「やっぱり、こんな男を気に掛けるんじゃなかった!!」と激しく後悔する礼央の姿があったとさ♪


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■かすみ工房/藤崎葵様から、前回の続編頂きましたvvv
■「6/29に閃山本出たらご褒美をあげよう!」とおっしゃって下さったのは、最近とかく諦めがちな私を原稿に向かわせる為だったのでしょうが…本当に…本当に下さるとは……!ありがとうございます~★
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